あらかぶの味噌汁 ーー序章

この連載では、幼い頃に父と通った海での釣りの記憶を、6回に分けて綴ります。

釣り場へ向かう道のり、そこで釣れた魚、家に持ち帰った魚を食べた記憶。そして、大人になってから改めて気づいた、父から教わっていたこと。

一匹のアラカブと味噌汁の思い出を軸に、子どもの頃には気づかなかった父との時間を振り返ります。

序章・ 防風林の先にある崖と磯

幼い頃、週末に父と連れ立って向かったのは、決まって日常から切り離された静かな水辺だった。

夏の間は海水浴客の歓声で賑わう砂浜も、シーズンが終われば人の気配が消え、訪れるのは数人の釣り客くらいのものだ。

半世紀前、この海水浴場の近くには祖父の家があって、祖父は朝から砂浜に出てキスを釣り、自宅の庭で七輪で塩焼きにして朝食のおかずにしていたという話を、父から聞いたことがある。

砂浜からの釣りといえば、何といってもキスが代表格だ。私たちが釣るキスの中には、時には30センチ近い大物も混じった。

釣り上げてすぐの新鮮なキスを揚げた、ふっくらとした肉厚の天ぷらの味は、言葉では言い表せないほど絶品だ。

砂浜だけでなく、時には違う表情を持つ場所へも足を運んだ。

漁村の港へと近づくと、防風林として植えられたアコウの木が群生している。その枝から何本もの根が空中に伸び、地表へと垂れ下がる様子は、まるで非現実的な太古の世界を見ているような、圧倒的な雰囲気を醸し出していた。

そんな道程を経て、目指す磯へと向かう。

父との釣りには、いつも膨大な荷物がつきものだった。父の肩にはクーラーボックスと撒き餌用のバケツ、道具箱がかけられ、手には数本の竿。抱えきれないほどの荷物を持って、父は迷いなく歩いていく。

釣り客しか通らないような畑の畦道を通り抜け、背丈を超える高さの雑草をかき分けて進む。

防風林として植えられた木々のすぐ向こうには、隠されるようにして目的地である磯があった。

そこから先は、釣り客の誰かが木に結びつけたロープを掴み、細心の注意を払いながら3メートルほどの斜面を降りる。

ロープなしにはとても降りられないほど、足場の悪い急な斜面だった。

しかし、その急な斜面を無事に降りた先には、別世界が広がっていた。

そこには波が岩に砕ける潮の音だけが聞こえ、車道からも遠く離れているため、街の雑踏は届かない。

辿り着いた磯もまた、足場には激しい起伏があり、滑りやすく不安定で、一歩一歩を慎重に進む必要があった。

至る所に危険が潜む場所だったが、不思議と恐怖心はなかった。

大きな釣り道具一式の荷物を抱えた父が側にいたからだ。

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