小4に高級食材

小4の春、遠足の目的地は海にせり出すように切り立った小高い場所にある公園である。この公園は、かつて城があり今でも発掘調査が度々行われている史跡でもある。その公園で昼食をとった後に目の前に広がる遠浅の海で潮干狩りをしようという疲労困憊必至のスケジュールである。

いつもの遠足では、お弁当の後は自由な遊び時間があり、17頃までには自宅に到着できるよう帰路に着くのが定番であったが、遠足と潮干狩りの組み合わせは後にも先にも、この一回きりであった。おそらく、遠足で疲労困憊した複数の教師の意見で、その後再び企画される事が無かったのだろう。

学校行事の中でも遠足は、山や海を普段の遊び場としているアウトドア派の男子生徒にとっては、主役になれる特別な機会である。インドア派の生徒や教師にとっては不便で危険でしかない場所が、一部の男子生徒にとっては危険も楽しみ方も知り尽くしている自分のフィールドなのだ。

そんなアウトドア派の一人である私は、潮干狩りで目覚ましい活躍をした。みんながアサリを掘っている最中、人生で初めてタイラギ貝という20センチ程もある大型の2枚貝を見つけ出した。偶然にも砂からわづか1センチ程突き出た貝の先端を見つけ、砂の中に縦に埋まった状態の貝を慎重に掘り出した。

家に帰ると、採ったタイラギ貝を家族に自慢気に見せた。しかし、家族の誰もタイラギ貝を見たことも食べたこともなかったのだ。まさか、それが高級食材であることも誰も分からないまま、丸ごと大鍋で煮て見ることにした。貝が開いて見えた中身は、グロテスクで毛のない鳥の雛のように見えた。今思うと勿体無いことだが、食べる気にはなれなかったために捨ててしまった。

あれ以来、買うにも値段の高いタイラギ貝を食べる機会に恵まれず、いまだにどんな味なのかも知らない。

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