金価格が高騰する本当の理由|ドル離れと暗号通貨の未来
レイ・ダリオ氏は著書『ビッグ・サイクル』の中で、国際基軸通貨はおよそ100年ごとに交代してきたと述べている。オランダのギルダー、イギリスのポンド、そして現在の米ドル。これらの通貨は、いずれも一時代を築いたのち、やがてその覇権を他に譲ってきた。
では、次に来るのは何か。それは他国の通貨か、それともまったく新しい形の通貨か。近年の金価格の高騰と、暗号通貨を取り巻く法整備の進展を見れば、次の通貨覇権の座をめぐる静かな地殻変動が始まっていることは明らかだ。
世界が金を買い集める理由
2025年現在、金価格は過去最高値を更新し続けている。その背景には、世界の主要国が国家レベルで金を買い集めているという事実がある。中国人民銀行は11カ月連続で金を積み増し、保有量は2300トンを超えた。ロシア、インド、トルコ、サウジアラビアなども同様に金準備を増やしており、これは単なるリスクヘッジではなく、明確な戦略的意図に基づく行動だ。
その意図とは、ドル依存からの脱却、すなわち「de-dollarization」である。米国の金融制裁や地政学的リスクを回避するために、各国はドル建て資産から距離を置き、代替となる価値の保存手段として金を選んでいる。金は利息を生まないが、国家の恣意に左右されず、歴史的に信認を保ち続けてきた「非政治的な通貨」だ。
暗号通貨の進化と法整備の進展
一方で、暗号通貨もまた、かつての投機的な資産から脱皮しつつある。ビットコインやイーサリアムといった主要な暗号通貨は、価格の乱高下を繰り返しながらも、年々その存在感を増している。
特筆すべきは、法整備の進展である。欧米を中心に、暗号通貨の規制枠組みが整備されつつあり、AML(マネーロンダリング対策)やKYC(本人確認)を義務づけることで、金融システムとの接続が進んでいる。ステーブルコイン(USDCやUSDTなど)は、実際の決済や送金手段としての利用が広がっており、「投機」から「実需」への転換が始まっている。
さらに、トークン化証券(セキュリティ・トークン)や分散型金融(DeFi)の発展により、株式や債券といった伝統的な金融資産もブロックチェーン上で取引される未来が現実味を帯びてきた。
米国株とドルの「通過点」機能
世界の株式市場における米国企業のシェアは約48.6%。つまり、世界中の投資家が米国株に投資するためには、基本的にドルを調達する必要がある。この「ドルを通らなければ投資できない構造」こそが、ドル覇権の根幹を支えている。
だが、もし暗号通貨で米国株を直接購入できるようになればどうなるか。すでに一部のフィンテック企業やDeFiプロトコルでは、ステーブルコインやビットコインを使って株式に投資する仕組みが登場している。これが本格的に普及すれば、ドルを経由しない投資資金の流れが生まれ、ドルの需要は相対的に減少する。
これは、ドルの「通過点」としての役割を奪うものであり、通貨覇権の構造に亀裂を入れる可能性を秘めている。
アメリカはドル覇権を手放すのか?
アメリカは、世界のIT産業の中心にあり、金融・軍事・文化の面でも圧倒的な影響力を持つ。そのアメリカが、自らの判断でドル覇権を終わらせるとは考えにくい。ドルは単なる通貨ではなく、アメリカの地政学的影響力を支える「見えない武器」だからだ。
しかし、もしドルの信認が揺らぎ、他国がドルを避けるようになれば、アメリカも戦略を見直す可能性がある。たとえば、米政府は過去に押収したビットコインを大量に保有しているとされており、暗号通貨の価値が上がれば、ドルの相対的価値は下がり、対外債務の実質負担も軽減される。これは、インフレによる債務圧縮と同様の効果を持つ。
つまり、アメリカが暗号通貨を「戦略的に活用する」ことで、次の通貨体制を主導する可能性もゼロではない。
トランプ政権下での変化の可能性
2025年現在、アメリカは再びトランプ政権下にある。彼の政策スタンスは「アメリカ・ファースト」であり、既存の国際秩序に対して懐疑的だ。もし、ドル覇権の維持がアメリカの国益に反すると判断されれば、意図的にドルの価値を希釈し、暗号通貨や金を通じて新たな通貨秩序を模索する可能性もある。
それはドルの終焉ではなく、「ドルの変身」かもしれない。デジタルドル、トークン化資産、あるいは米国主導のステーブルコイン圏。いずれもが、次の通貨覇権をめぐる静かな戦いの一部となり得る。
金とITが示す通貨の未来
金は、国家の信認を超えた価値の保存手段として、再びその存在感を増している。 一方、ITの進化は、通貨の形そのものを変えようとしている。 金は「過去の信頼」、ITは「未来の信頼」を象徴しているとも言える。
この二つが交差するところに、次の通貨覇権の姿が浮かび上がる。 それがいつ訪れるのかはわからない。だが、世界は確実に、次の通貨秩序に向けて動き始めている。


